犬のブルセラ症
話題になっているブルセラ症について、少しまとめてみたいと思います。
専門家の方やブルセラ症について詳しい方で記述の間違いに気付かれた方はコメントでご指摘下さい。
犬のブルセラ症(brucella canis)
細胞内に寄生するB.canisが原因の接触性細菌感染症で、雌犬では流産と不妊。雄犬では精巣上体炎と精巣萎縮が特徴。外界では長期間生存できず、特に太陽光の下では数時間しか生存できない。しかし、流産胎仔・胎盤では数ヶ月間生存する。
発生状況ははっきり分からないが、日本では家庭犬、野良犬含めて数%が感染していると推測されています。感染経路は流産胎仔、胎盤、陰部からの分泌物、精液、尿などに含まれている細菌が口から入ったり、交配によって感染する。
症状ははっきりしない場合が多いが、元気消失、性欲の欠如、リンパ節の腫脹、背中の痛み、流産、陰嚢の腫脹、慢性では陰嚢の萎縮、眼の混濁など。
一般的な診断方法は血清学的検査で、抗体価を測定するが偽陽性が多い。つまり本来陰性であるにも関わらず、基準値以上の抗体価を示す場合があります。ただし、非感染犬(陰性)はかなり正確に特定できます。より正確に診断する為には血液培養により病原体を分離します。
治療にはテトラサイクリンやドキシサイクリンにエンロフロキサシンやリファンピシリン(日本ではリファンピシンが無い為?)などの細胞内寄生細菌に効く薬を併用する事が勧められる。4~6週間連続で投薬し、最低でも3ヶ月間、各種検査で陰性が継続する必要がある。治療にはよく反応するが、特に雄犬の前立腺や精巣上体(去勢手術後に残っている精管など)に隠れている菌により再発する場合がある。感染初期は治療によく反応するが、慢性になればなるほど再発率は高くなります。ワクチンは無い。
ブルセラ症は『感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律』(感染症法)において、4類感染症に分類されています。4類感染症の定義は、『動物、飲食物等のの物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与える恐れがある感染症(人から人への伝染はない)として定められている感染症』となっています。4類の中には狂犬病も含まれていますが、決して同様に危険度が高いという意味ではありません。ちなみに1類には一時騒がれたSARSなどがあり、5類には急性ウイルス性肝炎やAIDSがあります。
1~3類は感染力や重篤度により分類され、4類、5類は感染症の性質・性格などで分類されているように見受けられます。ブルセラ症は狂犬病と同じ位怖い病気であると勘違いされている方も多いかと思います。
また、同法律では第5章『消毒その他の措置』で汚染場所の消毒や汚染物、汚染された死体などの制限は1~3類感染症に限定しており、4類感染症であるブルセラ症では制限されていない。つまり、現在和泉の現場では使用した水道水などを大阪府は生活排水として流さないように指示しているとの事だが、全くナンセンスであると言えるでしょう。
ブルセラ症と診断された犬はどうすべきか?
①ブリーダー等で繁殖を続ける場合、他の犬への感染を防ぐ為には陽性犬の完全隔離もしくは安楽死。経費等の理由で安楽死の選択が現実的。
②伴侶犬の場合、感染犬の隔離。不妊手術および投薬治療。治療後3ヶ月間は血清学的検査をし、陰性であることを確認。再治療に反応しない時や、費用の面で飼主が負担できない時には安楽死も考慮される。
人への感染は?
B.canisが人へ感染する事は稀であるが、汚染物(死亡胎仔や胎盤、尿など)から経口的にあるいは、眼結膜や皮膚の傷口から感染する可能性があります。また、研究者などは細菌培養をしている際に菌を吸い込んだり、獣医師などは血液からの感染の可能性もあります。不妊手術を施した犬からの感染は極めて稀です。感染した時の症状は発熱やリンパ節腫脹などで、特異的な症状はあまりありません。犬と違い治療によく反応します。ただし、がん患者、エイズ患者、免疫抑制剤を使用している患者などは感染のリスクが高くなるので接触は避けなければなりません。
人から人への感染は極めて稀ですが、母乳により乳児が感染する場合や性交渉、臓器移植による感染が報告されています。
今回、和泉市のブルセラ犬の問題で、最も重要なのは飼主が犬達をどうしたいのかという所だと思います。現在のところ、飼主はブリーダー本人だそうです。飼主(所有者)が大阪府になるのか愛護団体になるのかによって今後大きく方向は変化すると思います。
飼主が治療を望む場合、行政が殺処分を強制的に行う事は、昨年中国で起きた犬の殺処分の行為と変わらない行為であるといえます。
しかし、殺処分をしない場合も感染症蔓延を防ぐ為に飼主はある程度の責任を持つ必要があると思います。
第一に完全隔離をし、陰性が確認できるまで他の犬と接触させない事。
第二に不妊手術および投薬治療を行う事。
今回200頭を超える犬達(陽性犬は約半分?)ですので、一頭を飼う一般飼主とは状況が違います。陽性犬を隔離し、経済的・物理的に治療・治療後の定期的検査が可能であれば強制的な殺処分の理由は特にありません。ただし、経済的な理由などから治療がおろそかになるとすれば、殺処分という選択肢も否定できません。
また追加資料があれば後日追加していこうと思います。
【参考資料】
CDC(Centers for Disease Control and Prevention)のホームページ
IVIS(International Veterinary Information Service)のホームページ(獣医師専用)
小動物臨床の為の5分間コンサルト【第3版】p.368-369
獣医伝染病学〈第三版〉
他
余談ですが、犬のフィラリア症も人畜共通感染症(ズーノーシス)として挙げられており、人への感染は少ないものの、肺などに障害を起こします。ブルセラとはコントロールの難しさや伝染力が違いますし、寄生虫と細菌という違いもありますが、同じ人畜共通感染症です。
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コメント
>和泉の現場では使用した水道水などを大阪府は生活排水として流さないように指示しているとの事だが、全くナンセンス
この点について質問です。
現場には上水道のみならず下水道の設備もないため
排水が地下に染みこみ、現場の井戸が汚染され
井戸水を介して感染が広がった可能性があると聞いたのですが。
また病原菌が含まれていなかったとしても
消毒に使われた洗剤・薬品の入った排水をそのまま流すことはいけないのでは?
一般家庭でも洗濯排水等を下水ではないところに流すのはいけないと聞いています。
投稿: 素人ですが | 2007年2月19日 (月) 19時25分
はじめまして
ブルセラ症についての情報が少なく、人に感染するのでは?と心配しております。
何点か質問させてください。
・人は感染しにくく治療によく反応するとありましたが、感染した場合には
完治するのでしょうか?
・水疱瘡と同じように体内に菌が残るのでしょうか?
・人から犬への感染はありますか?
(感染するならば、感染の拡大があるのではと心配しています)
・陽性犬を治療するとしてどのくらいかかるのか?
(くすのき動物病院様で治療した場合の一般的な検査代金・
1ヶ月の抗生剤の料金を教えて下さい)
以上です。
お忙しいところ、お手数をおかけいたしますがお返事をいただけると
ありがたいと思っております。
よろしくお願いいたします。
投稿: セロリ | 2007年2月20日 (火) 01時41分
素人ですが 様
上下水道共に無かったのは知りませんでした。
私の完全な知識不足です。
どういったものを流して良いのか悪いのか私には分かりませんが、地下水を介して感染が広がった可能性は非常に低いと思います。
B.canisは寄生体から出てしまうと生存しにくい菌であるとの成書の記述からの憶測ですが。
セロリ様
人は完治します。
犬のように菌が残る可能性はまず無いと思います
B.canisの終宿主は犬のみとされていますので人がホストになることはまず無いと思います。
人から犬への感染は聞いたことがありません。もちろん感染患者の血液を犬が飲んだりすれば可能性があるかもしれません。
治療費は治療実績が無いので今のところ分かりません。ただ、抗生剤投与と月1回の血清検査(約1万円)、不妊手術が総費用になると思います。
投稿: 縄田龍生 | 2007年2月20日 (火) 09時12分
お忙しいところ、早速お返事をくださいまして
ありがとうございました
人は完治するとのことでしたが、がん・エイズ・
免疫抑制剤を使用している患者さんでも完治すると
思ってよいのでしょうか?
(完治するならばそれほど恐い菌ではないということに
なりますね)
抗生剤投与と月1回の血清検査は犬が死ぬまで続くのですか?
お答えいただいた治療費についてですが、1ヶ月分は
検査費用約1万+抗生剤の費用になるのでしょうか?
投稿: セロリ | 2007年2月20日 (火) 10時46分
先生、レスポンスありがとうございました。
上下水道のない施設での発生は不幸なことですね。
井戸水に関しては諸説あるということで。
セロリ様と類似の質問になりますが
免疫抑制剤使用とまではいかなくても
高齢、乳幼児、重篤な病気を抱えている人、あるいは
抗生物質を服用出来ない人は感染したらどうするのでしょうか?
(犬でも抗生物質を使えない個体もあるのでは?)
そういう方は結構周りにいますので、
簡単に抗生物質の投与で治療できると言われると
無責任な気がします。
また人→人の感染は
母乳を介した感染の報告もあるようですが。
新生児の感染などとなったら大変ではないでしょうか?
投稿: 素人ですが | 2007年2月20日 (火) 18時06分
セロリ様、素人ですが様
まず、免疫機能に問題のある方々に関してですが、病気の恐れのある犬を飼わないというのが基本だと思います。
そういった方々は我々が何ともない風邪やカビなどが命取りになることもありますのでリスクを避ける為にはブルセラに限らず犬を飼わないのが原則だと思います。
完治すると言ったのはあくまでも一般論であって、免疫不全の患者と条件をつけた時点で、ブルセラに限らずその他完治する病気全てが完治するとは言えなくなると思います。
接触が無ければ感染しないと断言できるのではないでしょうか?
血清検査のガイドラインは最低3ヶ月間陰性が続く事です。
抗生剤投与は通常1~2ヶ月です。血清検査の結果を見ながら判断します。
今回、異常なまでにブルセラ症に対する恐怖心があおられていると思います。
家畜のブルセラ症と犬のブルセラ症は違います。
犬のブルセラ症で死亡者の報告は無いはずです。
ブルセラ症を理由に殺処分となれば、フィラリア症はどうでしょうか?人に感染します。免疫機能の落ちた方などでは重篤になる可能性があります。
教科書では、ケンネルで発生したブルセラ症は陽性犬の淘汰が望ましいと書いてあります。
しかしこれはあくまでも、ブリーディングを続けるという前提で新たな感染を起こさせないためには治療よりも殺処分という意味であり、ペットとして飼われている犬に対するものではありません。
今回、動物保護団体は不妊手術をし、陽性犬を完全隔離し、長期間にわたり、治療・検査をするだけの人的、物理的、経済的な用意はあるといっています。
ペットとして治療するのに何も問題は無いと思います。
最近バタバタと亡くなっているそうです。
ブルセラではそう簡単に死にません。他の伝染病〈パルボウイルスやコクシジウム感染など〉が無いかも心配されるところです。
投稿: 縄田龍生 | 2007年2月20日 (火) 23時22分
血清検査の費用の訂正をしておきます。
日本では何箇所かの検査センターで検査が出来ます。
各々検査費用が違います。
調べたところ、検査センターによっては5千円以内でおさまります。主治医の先生にお聞き下さい。
投稿: 縄田龍生 | 2007年2月22日 (木) 15時49分
ミミくんモモちゃんでお世話になっています。
私も初めてブルセラ感染症というものを知りました。
大阪の行政の治療を試みようともしないで簡単に殺処分という判断にとても憤りを感じています。
人間、犬や猫、その他の動物達の命の尊さは同じだと思っています。
もし人間が何らかの感染症になって、感染源としての危険性があるかも知れないからといって簡単に殺しますか??!
動物だからと命の大切さを軽んじているように感じます。。
税金を無駄とも言えるような事ばかりに使用していて、命を助ける行為に使用しないなんて悲しい限りです。。
縄田先生の考え、思いをこれからも応援していきますので頑張ってください。
私も何か力になれる事は‥と思い自分のブログに助けを待っている犬達の事を書きました。一人でも多くの人に見てもらい、どうか良い方向に進んでいってくれる事を祈っています。。
投稿: | 2007年2月25日 (日) 01時05分