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2007年9月

2007年9月23日 (日)

疥癬

疥癬についての問い合わせがいくらかありましたのでご説明します。

疥癬ヒゼンダニ類の皮内もしくは体表への寄生による激しい痒みを伴う皮膚炎。

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伴侶動物の疥癬の原因となるヒゼンダニは5種類あります。

センコウヒゼンダニ

 代表的なヒゼンダニで、人や犬、牛、豚、馬、タヌキ、イノシシなどに寄生します。このダニは宿主特異性が強いため各動物に寄生するセンコウヒゼンダニは別種と思われるが、同種であるという異論もあります。形態学的な違いがほとんど無い為、現時点では単一種として扱われています。

②ショウセンコウヒゼンダニ

 主に猫に寄生しますが、犬やウサギでもみられる事があります。特に頭部や前足に寄生します。

③コトリヒゼンダニ

 小鳥、特にインコ類の顔面や脚に寄生します。

④ミミヒゼンダニ

 犬、猫、キツネ、フェレットなどの肉食獣の外耳道に寄生します。

⑤ウサギキュウセンヒゼンダニ

 ウサギの耳介、外耳道に寄生します。

これらヒゼンダニ類は卵から成ダニまで生涯を動物の体の上で過ごします。

センコウヒゼンダニなどは皮膚内にトンネル(疥癬トンネル)を作り生活し、産卵もトンネル内で行われます。他宿主への感染力は強く、接触による場合が多いのですが、落下したダニが近くにいる動物へ感染することもあります。ミミヒゼンダニやウサギキュウセンヒゼンダニは疥癬トンネルを作りません。

体から離れると生存できませんが、湿度97%、温度10℃で19日間生存したという報告もあります。

通常激しい痒みを伴いますが、この痒みの主な原因はアレルギー反応であると考えられています。このため、免疫抑制剤投与などの治療を受けている場合や、免疫能が低い場合には痒みの程度が低くなり、無症状キャリアとなり得ます。

診断

①皮膚掻爬検査:メス刃や鋭匙(エイヒ)と呼ばれる器具で皮膚を擦り取る。疥癬症の約20%しか陽性にならない。

②耳介-肢反射:耳介を擦ると陽性犬は後肢で掻く。陽性犬の約80%でみられます。

③抗体検査:血清中の疥癬に対する抗体を検出する検査。80%以上の特異性と感受性を持つが、免疫能の低い仔犬や感染後5週間以前では偽陰性の可能性がある。また、ハウスダストマイトと交差反応を有するため偽陽性となる事もある。日本では検査キット未発売。

④糞便の浮遊検査:糞便中にダニ成虫や卵が見られることがある。

⑤殺ダニ治療への反応:治療に対する反応(症状の改善の有無など)で診断します。つまり、皮膚病があり、疥癬が疑われるにもかかわらず上記の検査をしてもダニが検出されない場合、診断的治療を行います。疥癬に罹っていない事を保証する為にはこの方法しかありません。

治療法(適用外使用のものもありますので実際の治療に関しては獣医師(主治医)にご相談下さい)

①殺ダニ剤の投薬

 イベルメクチン(商品名アイボメック):200~400μg/kgを1~2週間間隔で3~4回注射もしくは経口投与。コリー、シェルティー、オーストラリアン・シェパード、オールド・イングリッシュ・シープドッグやその雑種、他の牧羊犬などでは中毒を起こす場合があります(MDR1遺伝子検査可)。また、フィラリア感染犬への投与も禁忌。

 ドラメクチン(商品名デクトマックス):200~600μg/kgを週1回、3~6回注射。使用の注意点はイベルメクチンと同様。

 ミルベマイシンオキシム(商品名ミルベマイシンA):1mg/kgを2日毎に8回投与もしくは2mg/kgを1週間毎に3~5回投与。

②外用薬

 セラメクチン(商品名レボリューション):6~12mg/kgを1ヶ月毎に2回滴下。2~4週間毎に3回治療するとより効果的。

 フィプロニル(商品名フロントライン):仔犬ではスプレー剤を3週間毎に3回塗布(3ml/kg)。成犬では6ml/kgで2週間毎に3回塗布。2ヶ月令以下の仔犬では安全性が高い。

 アミトラズ(商品名MITABAN®):ダニカットを使用する場合、700倍希釈で2週間毎に3回塗布。副作用に注意。チワワでは禁忌。通常病院でのみ使用。

 石灰硫黄合剤(商品名LYMDYP®):硫黄石灰液を使用する場合、32倍に希釈し、シャンプー後にリンスまたはディップを週1回、4~6週間実施。

③併発疾患(膿皮症など)の治療

人への感染

疥癬は人獣共通感染症です。感染犬に密接に接触すると腕や胸、お腹などに痒みを伴う発疹を呈する事があります。感染犬を治療すれば約1週間で自然治癒します。

少し前に刑務所内で起きた疥癬の集団感染は、ヒトヒゼンダニによるもので、イヌセンコウヒゼンダニとは違います。

ムーブの放送について

http://jp.youtube.com/watch?v=jZZvFeqsWxw

http://jp.youtube.com/watch?v=_r-gOMBT5gM

先日放送された『ムーブ!』の中で、大阪府立大学の教授が、疥癬の陰性の証明に関して、『陰性を証明するのは難しい。集団飼育の場合・・・1年観察すれば間違いない』とコメントしていると紹介しています。確かに、一般論では集団飼育の場合どのように環境を改善しているか、きっちり全頭投薬できているか、などにより単頭飼育と比べダニの完全な駆虫は難しいと思います。

仮に私の病院へ、多頭飼育のブリーダーが疥癬の治療に来院された場合、4~5回の投薬で治療を終えるかどうか分かりません。まさにその飼主がどれだけ環境の改善をするかにかかっているのです。ろくに掃除もせず、投薬のみ行った場合、再感染の可能性は大いにあると思います。しかし、頻回にシャンプーを行ったり、飼育ゲージを全て新しい物と入れ替えたり、飼育場所を移動させたりした場合、短期間の治療により再感染の可能性もなくなります。

飼主が徹底的な対策をしようがしまいが、投薬を終え、1年間再感染がなければ大丈夫だという一般論と、今回のような個々の症例とを同じものとして議論するのは非常に間違っており、明らかに情報操作をしているのか、もしくは単なる無知なのかという事なのです。

実際、馬場教授も『一般論としてはそうだが、実際は患者を診た獣医師でないと判断できない』と仰られているようです。

今回アークエンジェルズのスタッフやボランティアの方々が本当に猛暑の中、徹底的な現場の環境改善を行いました。私も数回現場を訪れましたが、改善のスピード・質はすばらしいものでした。あの子達の為にどれだけの人達が、どんな思いで活動しているのか、是非ムーブのMディレクター、見てください!

そして現時点で、本来なら広いドッグランで走り回ったり、里親様に引き取られているはずの子達が狭いバリケンの中で生活せざるを得ない状況を考えてみてください。

現場付近の住民の方々は是非、何が環境問題となり得るのかを科学的に追求してみて下さい。そして問題があれば、アークエンジェルズはそれを解決していきます。

消毒薬の地下浸透発言で会場は騒然となり、コメンテーターもとんでもない事だと発言しました。ビルコンという消毒薬は塩素系の消毒薬で、すぐに分解されほとんど無害となります。また、犬舎等の消毒に使用する量がどれほどのものでしょう。塩素が毎日大量に使われているプールで何十年間も泳いできましたが、大騒ぎするような害があるのならとっくに使用禁止になっているでしょう。ビルコンの環境への安全性は製造メーカーが証明しています(英文)

単に消毒薬=有害という非科学的な印象のみにより左右される事なく、非科学的な番組に踊らされる事なく、何が真実なのかをよく考え、調べてください。

ムーブの担当ディレクターM氏は私に対し、『現地の人は犬の多頭飼育により、農作物や環境に被害が出るのか出ないのか専門家の意見を聞いた訳ではなく、実際は知らないだろう。』と言っていました。

また、ムーブで『疑惑』として放送されてきた数々のものも、私が何故その後を放送しないんだと聞いたところ、『疑惑』が正確な情報だと確認できたものがあれば放送するが、『疑惑』情報が正しいとも間違っているとも分からず、今はまだ調査中なのでそのうちはっきりすれば放送すると言っていました。例えば仔犬販売疑惑も未だ一件たりとて販売の事実は確認できていない。しかしまだ調査中なのでその疑惑は間違いだったとは放送しないそうです。つまり10年経っても販売の事実が確認できない限り『調査中』なので間違いだとは言わないそうです。

話はそれましたが、今回たとえ疥癬犬がそのままシェルターに行きシェルター内で治療したとしても、その『疥癬』が環境問題を起こすことはありません。シェルター内に疥癬犬がいたとしても治療により、すぐに清浄化され、野生動物に広がる事はありません。

アークエンジェルズへの様々な『疑惑』が問題なのなら、その事を話し合ってください。本当に『疥癬』や『環境問題』が問題なのなら、専門家(農業技術振興センター など)に科学的な意見を求めてください。

参考資料

小動物皮膚科専門誌『ViVeD』 Vol.2 No.1 2006 pp.6-43.

小動物臨床のための5分間コンサルト[第3版] p.1328

第13回NAHA国際セミナー『難治の痒みの診断治療』テキストpp.36-38.

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